地球の裏側でうんこ漏らした
地球の裏側でうんこ漏らした
Ele foi divulgada a merda
21歳、日本男児。
幼少期よりお腹はゆるめ、ストレス性の腹痛なりがち。
高校時代、授業中にトイレに立った回数は数知れず。
そんな私は今、訳あって地球の裏側ブラジルにやってきております。
クリスマスに向けて街は盛り上がり、季節の逆転によって気温は30度を超える。
サンタの真っ赤な帽子を被るオバさんはビキニ姿です。
ブラジルに来てからというもの、何かと不幸続き。
iPhoneを無くし、財布を少年少女に奪われ、もはや失うものは何もないという状況の私ですが、ついに人間としての尊厳まで失う事態に陥りました。
人生で2度目、当然ブラジルでは初めてですが、うんこを漏らしてしまいました。
甲子園の出場校っぽく書くと「佐藤開(8年ぶり2回目)」。
今日はなんだかお腹の調子が悪かった。
たぶん朝に露店で飲んだグアバMixジュースのせいだろう。
僕の胃袋は基本的に海外非対応なので、日本らしくないものを取り込むと腹痛を起こします。
いつにも増してお腹がゆるゆるになり、うんこかと思ってトイレに駆け込んだら迫力のあるオナラだったというクダリをなんども繰り返してました。
本当はホテルで1日安静にしていたかったのですが、私には東京オリンピックを応援するための写真を撮るというミッションがあります。
チョンマゲ頭に和服を着て、写真を撮る。今日のノルマは30枚。
お腹に不安はありましたが、いついかなる時も共に戦い続けてきた我が腹を信じてビーチに繰り出しました。
海岸にはいつにも増して高い波が立っている。メタファー。
「チラ フォト(写真撮らせてくれ)」
5人に声を掛けて1人が写真を撮らせてくれるくらいの割合です。
言語の壁を越えることができず、今日も苦戦していました。
それでもなんとか1時間かけて10枚の写真を撮ることに成功し、よしまだまだこれからと思っていた矢先、
腹痛の波が押し寄せてきました。
おぉぉおおおおおなか痛い痛い痛い…やばい、やばい……ッ
突発的な腹痛になりやすい人は分かると思いますが、腹痛および便意には波があります。
乗り越えることもできるが、やってくるたびに波は強くなっていく。
なんども迫り来るビッグウェーブを乗り越え続ける感覚はもはやサーフィンと同様のスポーツ。
いづれは限界を迎えますが、ある程度の所まではやり過ごすことができます。
3日前にナイフを出されて財布を奪われた私ですが、どう考えても財布を奪われるよりブラジルでうんこ漏らす方がやばい。
僕は目を閉じ、深呼吸をしてこの高波をやり過ごそうとします。
お腹を優しく撫で、心を空っぽにする感覚。
お腹の痛みと強烈な便意から目を背けているといつのまにか波は静まります。
耐えた…。
ここでまずトイレを探すべきでしたが、なぜか写真撮影を再開してしまいました。
「なんかまだいける気がする。」便意あるあるです。
そして10分後に訪れた第二波。
しかもさっきよりもストロング。
(あ、これはけっこうアカンな…。)
もう僕レベルの経験値を積むと、本当にやばい時とやり過ごせるときの違いはわかります。
お腹の中に時限爆弾があって、そのタイマーが見えてる感覚。
僕はトイレを探し始めた。
が、まじでどこにあるのかわからない。
お腹を刺激しないようにゆっくりと、しかし大胆な一歩で砂浜を抜け出し、道に出た。
そして見つけたサンタの真っ赤な帽子を被ったビキニ姿のオバさんに僕は必死にポルトガル語で叫ぶ。
「Be njo…!Be njo…‼︎」
私は冷静さを失っていた。便所の位置を訪ねるポルトガル語を覚えておくべきだった。
しかしなんとかジェスチャーでお腹の限界が近いことを伝えることに成功し、オバさんは指で方向を示してくれた。
異様な剣幕で便所と叫ぶチョンマゲ頭の日本人と、真っ赤なサンタの帽子を被ったビキニのオバさんブラジル人が言葉の壁を越えて意思疎通を図る。そこにグローバル化する社会の縮図を見た。
オバさんに「オブリガード」と感謝の言葉を伝えながら、僕は僕でブリブリをガードしなければと本気で考えておりました。
本当にそろそろ限界を迎えつつあった私は、オバさんが指し示す方向に向かって駆け出す。
しかし焦りは禁物であり、すでにお腹は激しい上下運動を堪えることができないステージに突入している。
体幹をブラさず、下半身の巧みなスライドだけで移動する。
古に伝わる日本古来の走法、ナンバ走りを会得し、その姿は本物の侍。
その実、ただの内股小股歩きである。
しかし進めど進めど、一向にトイレは見えてこない。
漏れそうなとき、1mが1kmくらいの距離に感じる現象。
このあたりから、うんこのことを「うんこさん」と敬称を付けて呼び始めた。
いやいや、まじでブラジルで漏らすのはやばい…そう思ってもなかなかトイレが現れない。
というかそもそもオバさんがトイレを指し示してくれたのかすらも定かではない。
そして3度目の波がやってきた。
今度こそはヤバい、猛烈な便意である。
尻の周辺以外の異様な体温低下と反比例するかのように、心臓の鼓動が早くなる。
あ、もうだめだ。
僕は訳が分からなくなり、なぜか砂浜に戻った。
できることはやったと晴れやかな気分にすらなっていた。
人事を尽くして天命を待つ、そんな心地。
もしかしたら人間は、便意と戦い、うんこをするために生まれてきたのかもしれない。
僕は知っています。
うんこを漏らしたなんていうのは、トイレに出したか、パンツに出したかの違いでしかないことを。
今も世界の反対側では誰かがうんこを漏らしているかもしれないことを。
たくさんの偉大な先人たちもうんこを漏らしてきたことを。
うんこ出そうになって、なぜか元気も出てきました。
どうせみんな他人、明日になればこの地球上の最も遠いところまで飛行機で逃げ出せる。
恥ずかしいことなんてなにもない。
トイレでうんこができることは幸せなことなんだ。
本当は感謝すべきことが、いつの間にか当たり前になってしまああああああああ!!
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
昨日うんちしてからグアバMixジュースしかお腹に入れてなかったので、ほとんど出ませんでした。ほぼオナラでした。
それでもちょっとパンツは汚れたし、なんならちょっとズボンも汚れた。
おいパンツ、てめぇ、なんのために履かれてると思ってるんだ。
悲しさに襲われた。
「こんなことのためにクラウドファウンディングでお金を集めたんじゃない…。」
その場をすぐには移動できずに、僕は砂浜に腰を下ろして海を眺めていました。
30分くらい海を眺めていました。
ふと下を見たら僕と同じくらい惨めな人形が横たわっていました。
(どうやったら誰にもバレずに宿に戻れるかなぁ…。)
宿まで400mくらい。
自分で確認することはできないけど、もしかしたら尻が外から見ても汚れているかもしれない。
紺色のズボンを履いてるから大丈夫か…?いや、でも臭うのか…?
そのとき、僕は天才になった。
かのゴキブリも、死を直感するとIQが200を超え、空を飛ぶことを可能とするそうだ。
僕のあれもまさにそれだった。
「チョンマゲのカツラを被ったままホテルに戻ろう。」
今までは恥ずかしいのでチョンマゲはビーチでしか被っていなかった。
「チョンマゲに全ての注意を引きつけよう。」
僕はようやく立ち上がり、座っていた場所には上から砂をかけて宿に向かった。
狙い通り、通り過ぎる人々の視線はチョンマゲに集まる。
チョンマゲありがとう、オブリガード。
ブリブリガード、オブリガード。
宿に着いたとき、僕はちょっとだけ泣いていました。
あぁ、ブラジルもいよいよ最終日だ。